約 1,077,096 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/830.html
なに?本編を進めずに何を書いているって? 逆に考えるんだ、『本編なんt( ガ オ ン )さ』と考えるんだ… ん?言っちゃダメ? 言論の自由を守りたまえ 【逆に考える使い魔】 番外・卿の優雅な日常 私の朝は水場で逆立ちをしながら洗濯をすることから始まる 才能の有無に拘らず鍛練は重要なのだ シエスタに見られた時は随分と驚かれたが、今では平然と会話をしている… 水上で逆立ちする老人と会話するメイド…シュールだ… 洗濯を終えた後に主人を起こすのだが ベッドを天井近くまで蹴り上げても起きやしないので、私のエンゼル・ボイスで優しく起こしてやる 左膝をついて、左手を地面に、右手を口元に添え 息を大きく吸って~ 吸って~ 吸って~~ 吸って~~~! はい!そこで雄叫び! 『ウララァ~~~!』 「みぎゃあぁあああ!? こ・このバカ犬! 毎朝、毎朝、なんて起こし方するのよぉ!?」 よし!今日も爽やかな目覚め! 壁に罅が入ったのは気のせいさ♪ その後、本日の朝食(学園外で捕らえた苔の生えた豚のステーキ、血のスープ)を食べ終えた私は手持ち無沙汰の為に学園外の散策をする 主人の授業? あぁ、ミスタ・ギ、ギ、ギ…スネイプだったかな? その教師が担当した授業で風最強論を破ったら主人に授業に出るのを禁じられたのだ フラレ虫との合体技【ダブル魚雷】を防げぬ風を貫いたからといって… まったく、横暴な主人だ ここ最近、休み時間に決闘を申し込まれる事が多い… 無論全勝だが回数が多いので結果だけ書き記そう ①マリコルヌ戦、ズーム目潰し 2秒 ②ジャンクマン戦、逆タワーブリッジ 3分21秒 ③フルアーマーギーシュ戦、鎧内で反響、増幅したエンゼル・ボイスが鼓膜を破る 14秒 ④スネイプ戦、決闘を宣言した直後に八九三蹴 0.5秒 一人だけ妙な奴がいたけど気にしてはイケナイ 決闘を勝ち抜いた後は優雅に読書だ、紳士足るもの余裕を持たなければいけない 【はしばみマスター】が本を読みながら何かを呟いているので聞き耳を立てる 「兄貴、兄貴、兄貴と私 兄貴、兄貴、兄貴と私 俺を見てくれーーーー」 聴かなかったことにした 後は特に遣る事もないので寝る、これが私の日常だ
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1094.html
「さすがに『アン・ロック』程度の魔法では開かないわね」 メガネをはずした、ミス・ロングビルは嘆息した。 実は彼女、巷では「『土くれ』のフーケ」と呼ばれている、メイジの盗賊であった。 この学院に保管されている、あるマジックアイテムを手に入れる為、 ミス・ロングビルという偽名を使ってこの学院に潜入していたのである。 そして、その『目標の物』は、ここ、宝物庫に保管されている。 「ッ!」 真夜中にもかかわらず足音がする。近づいてくるようだ。 フーケは、とりあえず20メイル先の胸像の影に身を潜めた。 コッコッコッコッコッコッコッコッコッコッコッコッ… 通路中に響く足音とともに現れたのは… 「……」 岸辺露伴であった。 「どうだ?『デルフリンガー』の具合は?」 屋外では巨大な二つの月が天を彩っている頃、 ブチャラティは、すでに待ち合わせ場所にいた露伴に話しかけた。 ここは魔法学院本塔5階。 学院長室の1階下にある、宝物庫がある階である。 「いや、ダメだねありゃ。何を聞いても『思い出せねえ』ときた。 さすが6千年前に作られただけあって、相当ボケてるようだ。 取材対象としては失格だな。」 露伴は宝物庫の扉に寄り掛かりながら答えている。 「ところで、用件はなんだ?それにこんなところに呼び出して」 「ああ、ルイズの魔法のことなんだが、あの『爆発』。本当に『失敗』だと思うかい?」 「いや、違うな…本当に失敗したのならば対象に何の変化も起こらないはずだ。 おそらく、彼女はあの『爆発』に関係するような系統のメイジなのだろう。 オレの知っている系統のなかでは『火』が一番関係ありそうだが…」 「僕は、彼女は『虚無』の系統のメイジだと思う」 「なるほど。そう考えれば『俺たちを召喚できた事実』も納得がいくな…」 「でだ、ブチャラティ君」 「なんだ?いまさら君付けで呼び出して?」 「この『宝物庫』なんだが、中には貴重なマジックアイテムや伝説のお宝が多数眠っているんだ」 「もしルイズが『虚無』系統のメイジであるならば、 この中に何か彼女にとって助けになるようなものがある可能性が高い」 「?」 「この宝物庫には『固定化』という魔法が強力にかかっていて、ちょっとやそっとの魔法じゃ進入できない。 それに、常識的に考えて、物理的な破壊も難しいような壁の厚さに設計しているだろう」 「何が言いたい?」 「そこでだ…」 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ… 「君は教室で、『ジッパー』を床に取り付けて地面にもぐり、あの爆発を回避していた」 「なにッ!見えていたのか?」 「君の『スタンド』能力を使えば、この宝物庫の中に入れるんじゃあないか?」 「つまり、君は…」 「そう。僕も『スタンド使い』さ」 「…なるほど、心理的立場では君がひとつ『上』の立場にいるのか…」 「つまり、君は『オレのスタンド能力を使ってこの『宝物庫』に侵入したい』と?」 「そんなに気にするなよ。いいだろォ?同じ『使い魔』同士なんだし、さ?」 「…ひとつ条件がある。」 「何だい?」 「この場で君の『スタンド』を出してみろ…そうすれば手助けの件は考えてやらんでもない…」 「いいだろう…」 『ヘブンズ・ドアー』!! 岸辺露伴がブチャラティの目の前に『スタンド』を出現させる。 「なるほど、これが君の『スタンド』か…さすがに能力は教えてはくれないんだろうな…」 「ああ、僕の『ヘブンズ・ドアー』の能力はかなり特殊でね。 君の『スタンド』能力と違って、敵に知られてしまうと圧倒的に不利になってしまうんだ。」 (やはり使い魔には僕の『スタンド』能力は発揮できないか…これはなかなか厄介だな) 「…わかった。ルイズの為であるのならば『宝物庫』に侵入するのを手伝おう」 「だぁ〜い丈夫だって。ちょっと見るだけだからさ?」 「…どうだか…」 物陰に潜んで聞き耳を立てていた『土くれ』のフーケは、信じられない音を耳にした。 ギギギィ… 『宝物庫』の扉が開く音である。 フーケはあわてて物陰から顔をのぞかせて確かめる。 彼女に内容は聞き取れなかったが、『宝物庫』の前で話をしていた男達は何か話をしていた。 この男達(たしか二人共ミス・ヴァリエールの使い魔のはず)は、両者ともメイジではないはずだ。 にもかかわらず、彼らは、フーケが『アン・ロック』の魔法に失敗した扉を堂々と『開け』、中に入っている。 『スクウェア』クラスのメイジが『固定化の呪文』をかけている扉を、である。 フーケは驚きながらも、先日に起こった「決闘騒ぎ」を思い出していた。 (あの使い魔の能力なら『扉』をあけることは可能かも知れないわ。) (しかし、『あれ』を盗むのは今が最大のチャンス!) フーケは、学院での秘書生活を完全に終える決断を下した。 「すごいな…いろいろあるぞ。 こいつを見てみろ!どうやって使うんだろうな?」 「やっぱりルイズは関係なしか…」 子供のような目をして倉庫内を走り回る露伴を尻目に、ブチャラティはため息をついていた。 ふと、部屋の中央にある『筒』に目が行く。 「お、おい。ロハン!あれを見ろ! なんであんなものがここにあるんだ?」 ブチャラティは『破壊の杖』と説明書がされてある物をみて、驚愕した。 「これは…確か『M72ロケットランチャー』だな」 露伴が『破壊の杖』を手にしながらいう。 「うん。このダサいセンスのデザインは間違いなくアメリカ製だ。 『固定化の魔法』で劣化を防いでいるようだが… おいおい、安全ピンが抜かれているじゃないないか! 非常識な保管をしているな。いや、こいつの取り扱い方法を誰一人として知らないのか…」 そのとき、ブチャラティの目に、部屋の隅で動くものが映った。 「誰だッ!」 「どうした?ブチャラティ」 「いま、俺たちの背後で誰かが隠れる気配がした」 「なにッ」 露伴が『破壊の杖』を元の場所に戻しながら応じる。 〔オレが先に行く。ロハンは後ろでサポートしてくれ〕 〔分かった〕 (まずい!バレた?) 宝物庫に侵入し、身を隠しているフーケの体が硬くなる。 ブチャラティ達はそのままフーケが隠れているところまで一直線に歩いていく。 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ… グァシッ! 華奢な腕を『スティッキィ・フィンガーズ』が掴む。 「捕まえたぞ…」 「ちょっと痛いわ!放して!そんなに強く握らないで!」 「キュルケか…こんなところで何している?」 「それはこちらのセリフよ!宝物庫なんかに侵入して! バレたらどんな処罰が下されるかわからないわ!最悪処刑されてしまうわ!」 「それは『バレたら』の話だろ?」 「それよりも君に尋ねたいことがある。『破壊の杖』のことなんだが…」 「『破壊の杖』?何よ、それ。どこにあるの?」 「あそこに……無いな…」 ブチャラティが指差した先の壁には、 新しく文字が刻まれていた。 『破壊の杖、確かに領収いたしました。土くれのフーケ』 「…しまった…」 「…ヤバいな…」 「…ヤバいわね…」 その頃 宿舎では… 「フフフ…無駄よぅ、キュルケぇ。 私の使い魔の能力で『あなたと私のムネを入れ替えた』わ……ふにゃ」 To Be Continued...
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1239.html
「良かったじゃねーか相棒。とりあえず出てかなくても良いみたいだぜ」 「いや、そういう訳にはいかないよ、デルフ」 育郎が首を振って手の中のデルフに答える。 「なんじゃい?遠慮なんぞせんでもええぞ」 「いえ、違うんです。さっきの決闘で…僕は意識が無いまま闘っていたんです」 その話に怪訝な顔をするオスマン氏。 「しかし君は『力』を制御できるようになったと、さっきの話で言ってなかったかの?」 「………自分でもそう思っていました」 「君は傷ついたミスタ・グラモンを癒したじゃないか?」 遠見の鏡で決闘を見ていたコルベールが、その場面を思い出して言った。 「その時は」 育郎が説明しようと口を開いた時。 「それはだな、おっさん。あん時は相棒だったけど、その前は今の相棒じゃなかったんよ ん?なんだよおめーら、なに呆けた顔してんだ?」 意外ッ! 育郎の身体の秘密の鍵を握るのはデルフリンガーだった! 「そ、そういえばあんた、さっきもそんな事言ってたわよね?」 その場の全員が唖然とする中、ルイズが先程の事を思い出して口を開く。 「『あっち』のとか…ひょっとして、あんたイクローの身体のことわかるの!?」 全員の注目がデルフに集まる。 「…まあ、何となくだけどな」 ゴホン、と咳払いの真似をしてデルフが続ける。何処となく嬉しそうだ。 「あーまずはだな、あの貴族の小僧をぶっ倒した時の相棒はだ… 要は相棒が危ねーってんで、相棒の変わりに出てきて『敵』を倒したわけだ。 んで、『敵』を倒してこりゃ安心ってなったから、あの相棒はひっこんだ。 それから相棒が、あの小僧の為にってあの姿になろうとしたから、あっちの相棒は 相棒の言う事を素直に聞いてだ、あっちの相棒の姿になっても相棒の意識は残して、 相棒は相棒のまま相棒の力を使えるように、相棒が相棒の為に相棒を」 「…なんかややこしくなってきたから、ちょっと待ってくれない?」 「そうかい?」 ルイズの言葉に従って、話を止めるデルフリンガー。 「つまり…イクロー君の中にはもう一人の、おそらくその『力』の源になる 何者かが存在していると、そういいたいんですね?」 ミス・ロングビルが、デルフリンガーの話を、彼女なりに纏めて話した。 「あーまぁそういう事かね?」 「そういう事かねって…あんた本当に分かってんの?」 「だーから、なんとなくしかわかんねーって、俺は言ったろう娘っ子」 二人のやり取りを無視して、ミス・ロングビルが育郎に向き直る。 「イクロー君は、彼の話に何か心当たりはありませんか?」 思い当たるところがあるのか、育郎がハッと顔を上げる。 「そういえば……おぼろげですが、僕が僕の意思で『力』を使っている時も、 僕以外の何かの意思のようなものが、あったような…」 「ふむ…ひょっとして悪魔でもとりついておったりしてのう………なんつって!」 『だから洒落になってねーよジジイ』という視線がオスマン氏に突き刺さる。 「と、とにかく、その剣の話では、少年が危険な目にあわん限り大丈夫と… そういうわけじゃから少年、がそんなに心配する事の程でもないじゃろう」 「しかし……」 「今日の決闘を気にしておるのなら、相手が誰であろうと、決闘をすれば罰すると 規則を改める事にする。それでももし襲い掛かるものが居るようなら… なに、遠慮する事は無い…いや、そのような事態になった時は、 積極的にその『力』を使えばええ。そっちの方が安全じゃろ」 しかし、オスマン氏のその言葉にも育郎は厳しい顔を崩さない。 「………君がその姿を忌み嫌うのは分からんでもない。 だがのう、君が得たのものも、所詮ただの『力』という事を忘れてはいかん。 確かに一人の人間には重すぎる『力』かもしれん…だがのう、 それでも君はその『力』で少女を助けたのじゃろ?」 「しかし、スミレが…彼女が捕まったのは僕のせい」 育郎の言葉をオスマン氏がさえぎる。 「それでもじゃ、誰かの為に、正しく『力』を使えるというのなら… 何か…きっとその『力』は君が何かを成し遂げる助けになる。 正しい事を成し遂げる助けにな……それが例え忌まわしい力だったとしても… ワシはそう信じとるよ…君もそう思うじゃろ、ミスタ・コルベール?」 「はい、オールド・オスマン」 コルベールが、自分自身に言い聞かせるような口調で、重々しく頷く。 「ま、ワシが言っても説得力ないかもしれんがの?」 少しおどけた調子のオスマン氏に、今度こそ場が少し和む。 よっしゃぁぁぁ!! 心の中でガッツポーズをとるオスマン氏であった。 「では少年、この魔法学院にとどまってくれるかね?」 「………分かりました、僕もおじいさんを信じます! よろしくお願いしますおじいさん。それにコルベール先生、ロングビルさん… そしてルイズ、これからも僕が使い魔で良いかな?」 「い、良いに決まってるじゃない!あんたを召喚したのは私なんだから!」 「ありがとう…ルイズ」 「だ、だからそんな、お礼なんて言う必要は無いんだって…もう」 そのやり取りを微笑みながら眺め、オスマン氏は椅子から立ち上がり、育郎に向かって 手を差し出す。 「では、改めて…トリスティン魔法学院にようこそ、異世界からの来訪者よ!」 育郎はそのオスマン氏の手を、力強く握り返した。 感激してくれるのは嬉しいが…ちょっと痛いのう… オスマン氏はそう思ったが、雰囲気を壊さないよう我慢した。 偉 い ぞ !!
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/592.html
空賊! 使い魔と婚約者の狭間で 双月が重なる夜。 空は星々と月により完全な黒には染まらず、物静かで悲しげな蒼をしていた。 船は夜空を飛ぶ。風の魔力を込められた風石を動力源にして。 ワルドが船長に用意させた客室で、ルイズは椅子に座り込み身をすくませていた。 キュルケやギーシュ達は無事だろうか? 仮面メイジが自分達を追ってきたという事は、フーケはギーシュ達を襲ったに違いない。 承太郎がいたからこそ勝てた相手、キュルケなら無理に倒そうとせずうまく逃げれたか? そして勝利の鍵であった承太郎は仮面メイジにやられて負傷している。 幸い船に逃げ込めたから仮面メイジが追ってくる事は無いが、これから乗り込むアルビオンにはまだまだ貴族派の刺客が待ち受けているかもしれない。 ルイズはマントの中にしまっているアンリエッタ姫の書状を抱きしめ、任務の成功と、仲間の無事を祈らずにはいられなかった。 しかしそれも今では難しい状況。 ワルドが船長から聞いた話では、ニューカッスル付近に陣を配置した王軍は、攻囲されて苦戦中であり王党派と連絡を取るには陣中突破しかないそうだ。 果たして――無事、ウェールズ皇太子に会えるだろうか。 翌日、いきなりもう無理っぽい雰囲気になった。 浮遊大陸アルビオン――通称『白の国』。 大陸の大河からあふれた水が空に落ちる際、白い霧となって大陸の下半分を包んでいる。 霧は雲となり大雨を広範囲にわたってハルケギニアの大陸に降らすのだ。 地球では見られない絶景に承太郎が感心していた時、空賊が襲ってきたのだ。 大砲を突きつけられて停戦命令を出され、ルイズ達の乗った船は呆気なく降参した。 貴族の客、という事でルイズとワルドは船倉に捕らえられてしまう。 船の積荷だけでなく、ルイズ達の身代金でもう一儲けするつもりらしかった。 貴族の一味という事でメイジではない承太郎も一緒に船倉に連れられた。 その承太郎の顔色が悪いので、ルイズは心配になって怪我の具合を問いただす。 「たいした負傷じゃあない……気にするな……」 「だったらちょっと見せなさいよ!」 ルイズは承太郎の学ランを掴むと、袖をたくし上げた。 抵抗しようとした承太郎だが力が入らず、弱々しいものだった。 「きゃ! ……酷い」 稲妻の直撃を受けた承太郎の左腕は手首から肩までミミズ腫れが続いており、それが悪化して酷い水ぶくれにまでなっていた。 見ているだけで痛々しく、そして気持ち悪い。 ルイズは空賊を呼んで水のメイジがいないか、怪我を治して欲しいと頼んだが、空賊は少しも取り合おうとせず無視された。 するとルイズは泣いてしまう。 「うっとおしいぞ、メソメソ泣くくれーなら最初から依頼を受けるんじゃねえ」 「使い魔君、そんな言い方はないだろう。彼女はまだ十六歳の小さな少女なんだ」 「貴族だ何だと偉ぶってるくせに気合の足りねー態度は気に食わねぇ。 ルイズは『殺されるかもしれない覚悟』をして依頼を受けたはずだ。 そして『同行する俺やギーシュが殺されるかもしれない覚悟』もしているはずだ。 だから……この程度の負傷でピーチクパーチク泣かるようじゃ、話にならねぇ」 「ルイズは僕が守る。君も僕が守ろう。誰かが殺されるなどと不安がる必要は無い」 「杖がねーと何もできないてめーが、この状況をどうにかできるのか?」 「今は根気よくチャンスを待つ。こんな時こそ知的にクールにいこうじゃあないか」 決闘で承太郎に敗れた事を気にしているのか、 やけに丁寧な口調ながらも何だか挑発的なワルドを見て、ルイズの不安が増す。 自分と違って、この二人は強い。もはや任務成功の鍵はこの二人が握っているのだ。 それなのに不仲になられては非常にまずい。それに――。 (それに――何だろう。二人が喧嘩してると、すごくヤな気分になる) 心情的には礼節な婚約者の肩を持ちたい。 けれど無愛想な使い魔の事も気になる。 承太郎は時々怒るけど、怒り方が二種類あると思う。 単純に怒っているだけなのと、そうでない怒り方。 今の承太郎は後者な気がする。 怒っていても、優しさを感じてしまうような、不思議な印象――。 しばらくして、空賊が食事を持ってきた。 粗末なスープと水の入ったコップ、それが三人分。 最初は文句を垂れたルイズだが、体力の維持のため渋々スープを飲む。 その後、ルイズはシャツの袖をちぎると、自分の飲み水に浸し、承太郎の火傷を冷やした。 「余計な事はするな」 「意地張ってんじゃないの。一応、私の使い魔なんだから、たまには言う事聞きなさい」 「…………」 冷やされて痛みを感じているのか、承太郎は唇を噛みしめているようだ。 しかし抵抗はしない。ルイズの心遣いを受け入れてくれた、という事か。 何か言った方がいいかな、と思ってルイズは口を開きかけ――。 「あの、ジョ……」 再び船倉のドアが開かれた。食器を回収にきたのか、空賊が入ってくる。 そして三人を見回すと楽しそうに質問をしてきた。 「おめえ等はよぉ~、もしかしてアルビオンの貴族派かい? いや、そうだったら申し訳ないと思ってさぁ~。 俺達はおめーさん達のおかげで商売できるって事になるし、 王党派に味方しよ~ってヌケサクどもを捕まえる密命も受けてんだよ」 「それではこの船は反乱軍の軍艦なのかね?」 「質問を質問で返すなッ! アレか? 貴族は質問には質問で返せと教わってんのか? このスカポンタンがッ! クソッ! 舐めてんじゃねーぞゴルァ!」 ワルドの質問にブチ切れた空賊は近くにあった樽を蹴飛ばした。 「怒らせてすまない。ただ相手が空賊なのか、 反乱軍なのかも解らず質問に答えるというのも怖くてね」 「ケッ、ま~い~か。俺達は雇われてる訳じゃねーさ。 反乱軍とはあくまで対等な関係で協力してるだけさぁ~。 で、どうなの? おたく等、貴族派? それなら港まで送ってやるぜ」 ここで「はい、そうです」と嘘をつけば無事港に行けるだろう。 だがルイズは! 逆に馬鹿正直に答えた! 「誰が薄汚い反乱軍なものですか。私は王党派への使いよ! 私はトリステインを代表してアルビオン王室に向かう大使なのだから、あんた達は私達をそう扱うべきなのよ!」 あまりに正直に言ってしまったもので、承太郎もワルドも黙り込んでしまった。 もう何を言っても手遅れだ。 後は成り行きを見守って、ヤバそうなら実力行使に移るしかない。 空賊はゲラゲラと笑う。 「正直者だなぁ~、あんた。そこんところは褒めるけどよ、ただじゃすまね~ぞォ」 「あんた達に頭を下げるくらいなら死んだ方がマシよ。 私は『殺されるかもしれない覚悟』をして密命を受けているのだから」 「あぁ~ん……ほんじゃ、まあ、頭に報告してくらぁ」 ルイズ達をどうこうする権限を持たないのか、空賊の男は船倉に鍵をかけて去った。 死刑確定、ではない可能性を承太郎は考えていた。 あの空賊の態度、どこか演技を感じられた。些細な違和感……勘違いかもしれない。 さて、ルイズの行動は吉と出るか凶と出るか。 吉と出た。 空賊の頭の正体はアルビオン王党派どころか、 アルビオン王国皇太子ウェールズ・テューダーが変装したものだったのだから。 「アルビオンへようこそ大使殿」 ついさっきまで空賊をやっておきながら善意100%スマイル。 この皇太子、大物である。 王党派に味方する外国の貴族がいるなんて夢にも思わなかったため、ルイズ達は試されていたのだ。 空賊の頭を演じるウェールズの前でも意地を張り通したルイズのおかげで、何とかその信用を得る事に成功した。 まさに僥倖である。 「アンリエッタ姫殿下より密書を言付かって参りました」 ワルドが優雅に頭を下げる。 「ふむ、姫殿下とな。君は?」 「トリステイン王国魔法衛士隊、グリフォン隊隊長、ワルド子爵。 そしてこちらが姫殿下より大使の大任を仰せつかったラ・ヴァルエール嬢と、その使い魔の男でございます。殿下」 「して、密書とやらは?」 ルイズは慌てて手紙を取り出したが、ウェールズの顔を見て、ちょっとためらう。 「あ、あの……」 「何だね?」 「その、失礼ですが、本当に皇太子様であらせられますか?」 ウェールズは美形である。大人の気品を持ったギーシュの如き美形である。 だがついさっきまで髭ヅラに変装して空賊の頭なんぞやっとりました。 ルイズが不安になるのも仕方ない事だろう。 ウェールズは笑って、薬指にはめていた指輪を外すと、ルイズの手を取り水のルビーに近づけた。 ふたつの宝石が共鳴し虹色の光があふれる。 「この指輪はアルビオン王家に伝わる風のルビーだ。 君がはめているのは、アンリエッタがはめていた水のルビーだ。そうだね? 水と風は虹を作る。王家の間にかかる虹さ」 「大変、失礼をばしました」 ルイズは一礼して、手紙をウェールズ皇太子に手渡す。 ウェールズは愛しそうに手紙を見つめ、花押に接吻をしてから手紙を取り出した。 真剣な顔で読み、真剣な声で問う。 「姫は結婚するのか? あの、愛らしいアンリエッタが。私の可愛い……従妹は」 ワルドが無言で頭を下げ肯定する。再びウェールズは手紙に視線を下ろした。 そして、最後の一文を読む。 その時、彼の表情が無表情になった。 固く、固く感情をせき止め、あふれんばかりの感情を押し殺した表情に。 「……了解した。姫の望みは私の望み。例の手紙を返すとしよう。 だが手紙はニューカッスル城にある。多少面倒だがご足労願いたい」 ウェールズの船は雲の中を通り大陸の下部からニューカッスルに近づいて、王家だけが知る秘密の港に船を入港させた。 こうしてルイズは無事、ウェールズの案内の元、城に到着する。 ルイズだけを質素な自室に招き入れたウェールズは、小箱を開けた。 ふたの内側にはアンリエッタの肖像画が描かれている。 そして、小箱の中から一枚の手紙を取り出した。 何度も繰り返し読んでいるのか、ボロボロになっている。 その手紙をウェールズは再び、最後にもう一度だけ読み直した。 表情は優しく、しかし悲しげであった。 手紙を丁寧にたたみ封筒に入れたウェールズは、それをルイズに渡す。 「これが姫からいただいた手紙だ。この通り、確かに返却したぞ」 「ありがとうございます」 「明日の朝、非戦闘員を乗せた船がここを出港する。 それに乗ってトリステインに帰りなさい」 その言葉を受け、ルイズはしばし考え込み、 やがて意を決したように質問を投げかけた。 「あの……殿下。王軍に勝ち目はないのでしょうか?」 「無いよ。我が軍は三百。敵軍は五万。万に一つの可能性もありえない。 我々にできることは、勇敢な死に様を連中に見せつけるだけだ。最後まで誇り高く」 「殿下の討ち死にされる様も、その中には含まれるのですか?」 「当然だ。私は真っ先に死ぬつもりだよ」 明日死ぬ身の上、しかしウェールズは落ち着いていた。死ぬ事を受け入れていた。 それが――ルイズには納得いかない。 「殿下、失礼をお許しください。この、お預かりした手紙の内容、これは……。 この任務をわたくしに仰せつけられた際の姫様のご様子、尋常ではありませんでした。 そう、まるで……恋人を……案じておられるような……。 先程の殿下の物憂げなお顔といい……もしや……姫様とウェールズ皇太子殿下は……」 ウェールズは微笑み、ルイズの言いたい事を悟った。 「君が想像している通り、今渡した手紙は恋文だよ。 確かにこれがゲルマニアの皇室に渡ってはまずい事になる。 アンリエッタがゲルマニア皇帝に誓う愛は偽者となり、結婚および同盟の話はご破算。 そうなればトリステインは一国の力で我が国の貴族派と戦わねばならない」 「殿下、亡命なされませ! トリステインに亡命なされませ! お願いであります。私達と共にトリステインへいらしてください!」 「それはできんよ」 「そんな……でも! 手紙には、手紙の末尾には、姫様は記したのではないのですか!? あなたに亡命を求める一文を。記したはずです!」 「そのような事は一行たりとも書かれていない」 ウェールズは首を振った。 「私は王族だ。嘘はつかぬ。姫と、私の名誉に誓って言おう。 ただの一行たりとも、私に亡命を勧めるような文句は書かれて……いないッ」 苦しそうな口振りだった。それだけで、ルイズはそれが嘘であると解ってしまう。 「……君は正直な女の子だな。ラ・ヴァリエール嬢。 正直で、真っ直ぐで、いい目をしている。 我等が王国が迎える最後の客に相応しい人柄だ。是非最後のパーティーに出席して欲しい」 こうしてアルビオン王国最後の夜が、ついにその足音の届く距離に迫った。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1766.html
10話 前編 月明かりが雲に隠れたのを見計らって、 一人の男が音も無くトリステイン魔法学校の敷地に踏み入った。 いや、「踏み入った」と表現するのは正確ではない。 何故なら男は「レビテーション」でも使っているかのように、 空中を滑るように渡って学校の校舎の壁に取り付いたからだ。 その姿は、自分の糸を伝ってするすると移動する蜘蛛のようである。 彼が壁に取り付いた瞬間にも音はしなかった。 吸盤へと変形した彼の両手足の指紋が接触時の音を吸収したのだ。 そして自分の手足が壁にしっかり取り付いたことを確認すると、 その男――ラング・ラングラーは、自分が受けた依頼の内容を反芻した。 シェフィールドと名乗ったあの女がラングラーに依頼したこと。 それはこの魔法学校からある生徒を拉致することだった。 ちなみに、頭がまともな人間ならこんな依頼は普通しない。 トリステイン魔法学校などという、教師どころか拉致の対象となる生徒自身が魔法という強力な自衛手段を持つこんな場所に人攫いに入ったところで、 あっさり撃退された上に監獄送りになるのは確実だからだ。 にもかかわらず、そんな魔法学校に人攫いに入ってほしいと依頼されたのは、 やはりラングラーのメイジ殺しとしての実力が買われたためであろう。 彼が「メイジ殺し」ならぬ「魔法殺し」と呼ばれる、ラングラーの実力が。 さて、話を戻そう。 ラングラーが受けた任務は、トリステイン魔法学校の「ある生徒」の拉致。 そしてその「ある生徒」が寮のどこにいるかは、スデに確認済み。 本人の特徴もラングラーの頭にキッチリ入っている。 全てが完璧だ。 そう心の中で呟くと、ラングラーは音も無く壁を這い上がり始める。 ターゲットの生徒が眠る、女子寮の一室の窓に向かって。 そしてお目当ての窓に到着したラングラーは自分の「力」を静かに呼んだ。 「ジャンピン・ジャック・フラッシュ・・・」 その呟きとともに、ラングラーの背後に奇妙な亜人が現れる。 その姿はマントの下のラングラーの格好に酷似しており、 目には釘を打ち付けた、鉄板のようなデザインの目隠し。 腕にはいくつもの穴が等間隔で開いた腕輪。 これが「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」。 ラング・ラングラーが「魔法殺し」たりえる、その力の理由。 ラングラーの意志のままに動く、ラングラーの半身とも言うべき存在だ。 そのジャンピン・ジャック・フラッシュが、窓へと手を伸ばした。 そして、まるで幽霊のように窓ガラスをすり抜けると、窓の内側から鍵を外した。 そしてラングラーは両手の吸盤を窓ガラスにくっつけると、そっと窓を開く。 夜風が部屋の中に静かに吹き込んだ。 それに部屋の主である桃髪の少女が気づくことは無かった。 しかし少女の使い魔たる亜人――ホワイトスネイクには、それが分かった。 室内に吹き込んだかすかな風を感じ取ったホワイトスネイクは、 瞬時に戦闘態勢に移った。 今ホワイトスネイクはルイズの体内で眠っている状態だ。 まだ実体化はしていない。 しかしルイズの身体に何かが起きれば、 すぐにホワイトスネイクはそれを感じ取れる。 スタンドとして20年間プッチ神父を守護し続けてきた経験が、 それを可能にしていたのだ。 そしてホワイトスネイクは考える。 部屋のドアが開いたのなら風など吹き込まない。 ならば空いたのは窓。 しかし窓には鍵がかかっていた。 ならばこの部屋に不法侵入したのは魔法を使えない人間ではない。 メイジだ。 メイジなら鍵を外せる魔法を使える。 そしてこの学校の生徒にわざわざ窓から入ってくる理由が無い以上、 このメイジは確実に学校外の存在。 つまりほぼ確実に敵。 実体化していないためにホワイトスネイクは侵入者の姿を見ることは出来ない。 だが今までの経験がそれを十分に補い、状況を把握させてくれた。 どうするべきか。 この七日間、ホワイトスネイクを悩ませ続けた命題が、 まさしく抜き差しなら無い状況で彼に向かってきた。 自分の存在意義たる「主人の守護」を実行すべきか。 自分を憎む主人が下した、「二度と出てくるな」の命令に従い、傍観するべきか。 迷ってばかりではいられない。 悩んでいる間にも、確実に侵入者は主人であるルイズに近づいている。 侵入者の目的の詳細は不明だが、この部屋に入ってきた以上、 ルイズを殺すか拉致するかが敵の目的の要綱なのは確実だ。 迷えば迷うほど余裕は無くなっていく。 しかしどちらを選んだとしても、自分という存在は否定されることになる。 果たしてどうするべきなのか。 (ダガ・・・コレ以上決断ヲ迷エバ本当ニ取リ返シノツカナイコトニナル。 ソウナルヨリハ・・・・・・クソッ!) 半ばヤケクソになって、ホワイトスネイクは発現した。 そして流れるような動作で腕からDISCを抜き取り、 そのまま窓の傍に立つ、見知らぬ「敵」に対してそれを投擲するッ! 命令の内容は「10メートル飛んだ後に破裂しろ」ッ! まさしく一撃必殺と言える命令が、侵入者の頭部へと向かい―― 「JJF(ジャンピン・ジャック・フラッシュ)ッ!」 部屋中に響く叫びとともに、DISCは弾き飛ばされたッ! 「ナン・・・ダト?」 ホワイトスネイクは驚愕した。 さっきまでの苦悶がそれこそ月までぶっ飛び、 ホワイトスネイクの脳裏から消え去ってしまうほどに。 その原因は自身の必殺の一撃がアッサリ弾き飛ばされた事ではない。 ジャンピン・ジャック・フラッシュ。 自分自身もよく知るその単語。 そしてそれを叫んだ侵入者の、その声に驚愕したのだ。 その単語を知る者、そしてその「力」を扱える者を、 ホワイトスネイクは一人しか知らない。 「今のは・・・DISCだと?」 そして動揺したのはホワイトスネイクだけではない。 侵入者――ラング・ラングラーも、今の攻撃に驚愕していた。 DISKなどというものはこの世界――ハルケギニアには存在しない。 そして今のDISCの感触――壊れそうで決して壊れない奇妙な手応え。 そんな物を扱える存在など、ラングラーはたった一つしか知らない。 「貴様ハッ!」 「てめー、まさか・・・」 「ラング・ラングラーッ!」 「ホワイトスネイクかッ!」 二人が驚愕に声を上げたのもつかの間、互いに瞬時に間合いを取る。 ラングラーはJJF自分の正面に回りこませ、 さらにその腕を突き出すように構えさせる。 そしてホワイトスネイクは太極拳の型のような構えを取る。 (一体ドウイウ事ダ? 何故ラング・ラングラーガココニイル? イヤ・・・ソレハ本体ノ死トトモニ消滅スルハズダッタ私ニ関シテモ同ジカ。 コイツモマタ私ト同ジク、メイジニ召喚サレルコトデ、コチラ側ヘ・・・?) (クソッ・・・何故こいつがここにいる・・・・? それに今・・・こいつ・・・このガキの・・・すぐ傍から出てきやがった。 ってことは・・・このガキがホワイトスネイクの本体・・・ってことか? ・・・ありえねえ。 こいつの本体は・・・こっちの人間じゃあ・・・ねえハズだ。 このガキが・・・『水族館』にいたハズが・・・ねえ。 だったら・・・このガキは・・・ホワイトスネイクにとっての・・・何だ? 本体でも無いのに・・・傍から出てくるなんてのは・・・それこそ有り得ねえ。 じゃあやっぱり・・・このガキは・・・本体なのか? それにホワイトスネイクは・・・一体どうやって・・・こっちに来た? 俺とおんなじで・・・いきなりこっちに・・・飛ばされて来たのか?) (トニカク・・・状況ヲ整理スルベキダ。 コイツノ『JJF』ハ中距離戦闘モ可能・・・パワーハ私ヨリ上。 ・・・ドウ考エテモ不利ダ。 スキヲツイテ急所ヲ突クノガ最善カ・・・?) (クソッ・・・こいつが・・・なんでここにいるかは・・・後回しだ。 それにしても・・・こいつがいるとなると・・・話が厄介になってくる。 俺がもらった依頼は・・・『ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールを無傷で確保すること』。 このガキが・・・ホワイトスネイクの本体である以上・・・ホワイトスネイクが受けたダメージは・・・ガキに反映される。 そうなったら・・・依頼は完全成功とは言えねえ。 ホワイトスネイクを・・・ヘタに殺す事は・・・できねえ。 クソッ・・・厄介な事に・・・なってきやがった・・・・・・) 互いに状況を把握に努め、取るべき行動を策定する。 しかしこの状況はどちらにも不利であり、ありがたくない状況だ。 そして―― 「もう・・・何なのよぉ・・・誰かいるのぉ?」 どちらにとっても、目覚めてほしくない人間が、目覚めた。 (シマッタ・・・サッキ、私トラングラーガ出シタ大声デ目ヲ覚マシタカ!) (ちっ・・・寝てる状態で拉致った方が・・・楽だったろうに・・・。 もっと・・・面倒に・・・なりやがって・・・) そして双方ともに、この状況に心の中で毒を吐く。 「・・・って、ホワイトスネイク! あんた、何で出てきてるのよ!」 ホワイトスネイクの姿を見たルイズが、寝起きの頭で思わずそう言った。 そして言ってしまってから後悔した。 使い魔の主人としてやるべきことはしなくちゃあいけない。 だけど、それがどちらなのかが分からない。 決して許されない罪を犯したホワイトスネイクを完全に封印することなのか、 それとも形式上とはいえ、ホワイトスネイクの罪を許すことなのか。 許すことが大切なのだと言う人もいる。 「罪を憎んで人を憎まず」というやつだ。 でも、ホワイトスネイクの罪はそんなことで済ませていい話じゃない。 どこかで、ケジメをつけなくちゃいけないことだ。 でも・・・「ホワイトスネイクを出てこさせない」事がそれなのだろうか? それが、「ケジメをつける」ということになるのだろうか? ルイズはそこで迷っていた。 そしてホワイトスネイクの方は、この時点で一つの覚悟を決めた。 やはり主人は自分が現れることを、まだ許してはいなかった。 ならばこうして発現してしまったことに対して、 何らかの形で責任を取らねばならない。 はたしてどのように責任を取るか。 それもまた、ホワイトスネイクはスデに決めていた。 そしてそれを実行するだけの覚悟も今ここで決めた。 暫しの沈黙の後、ホワイトスネイクがルイズに話しかける。 「マスター。時間ガ無イノデ簡潔ニ説明スル。今、敵ノ襲撃ヲ受ケテイル」 「て、敵?」 「ソウダ。今、私ノ目ノ前ニイル」 ルイズはホワイトスネイクの言葉に従い、その前方の暗闇に目を向ける。 ルイズの鳶色の目に、見知らぬ男――ラング・ラングラーの姿が映った。 そしてその後ろにいるジャンピン・ジャック・フラッシュの姿も、ルイズには見えた。 「だ・・・誰かいるわよ? そそそれに、その後ろにも誰かいる・・・だ、だだ誰よ!?」 「ヤツノ名ハ『ラング・ラングラー』。『スタンド使い』ダ」 「スタンド使いって・・・あんたがわたしに召喚された日に言ってた・・・・・・」 「ソウダ。スタンド名ハ『ジャンピン・ジャック・フラッシュ』。 私ガ知ル中デハ、コト戦闘ニオイテハ最も凶悪なスタンドダ」 「そ、その凶悪なヤツが、何でわたしの部屋にいるのよ! というか、なんであんたがアイツのことを知ってるのよ!?」 「ヤツノ目的ニツイテハ不明ダ。 ソシテ私ガヤツノコトヲ知ッテイルノハ、私トヤツガ同ジ世界ニイタカラダ」 「同じ世界? そういえばあんた、別の世界から来たとか何とか言ってたわね・・・」 「ツマリソウイウコトダ。 ソシテ今カラ戦闘ニナル。ツマリ私ノ領域ダ。マスターハ下ガッテイロ」 そう言って、ホワイトスネイクはルイズの前に出た。 そしてこの光景に、ルイズは一週間前のことを思い出していた。 あの時もそうだった。 こいつはいつも何が一番正しいかが分かっているかのような振る舞いをしていた。 そして自分をどこか見下ろしたような目をしていた。 自分を、未熟なものとしてみるような目をしていた。 それを思い出したら、何か頭の芯が熱くなるようなそんな思いがしてきた。 ホワイトスネイクが言うことが正しいのは分かる。 分かるけど、それに従いたくなかった。 従うのが悔しかった。 その悔しさで、さっきまでの悩みなど、どこかに吹き飛んでしまっていた。 「・・・・・・イヤよ」 自分の主人が発した言葉に、ホワイトスネイクは耳を疑った。 「・・・何ダト? 今何ト・・・・・・」 「イヤ、って言ったのよ。アイツはわたしに用があるんでしょ? だったら私が決着をつけるわ。だから下がるのはあんたの方よ」 「・・・不可能ダ。ソレニヤツノ狙イハマスターダ ソレデハヤツノ思ウ壺ニナル」 「うっさいわね。『命令』よ、これは。 そもそもあんたが出てくるのが間違いなのよ。 こんなヤツわたし一人でどうにかできるわ」 「ダカラソレハ不可能ダト言ッテイル。落チ着ケ、マスター」 「落ち着いてるわよ、ホワイトスネイク。 それにあんた、久しぶりに出てきたと思ったら随分わたしに反発するわね。 私の命令に従えないの? 私を、ご主人様だって認めてないの?」 口を開くごとに自分の体が熱くなっていくのが、ルイズ自身にも感じ取れた。 自分の口調が荒くなっていくのも分かった。 言うことを聞かないホワイトスネイクに、無性に腹が立って。 そのホワイトスネイクが自分に背を向けているのが、余計に腹立たしくて。 自分を守るために、敵と向き合うために自分に背を向けているのは分かる。 頭のどこかでそれが分かっていても、今はそれが、無性に憎らしく思えた。 「・・・始末ノ付ケ方ヲ見ツケタダケダ」 予想もしなかった返答が、ホワイトスネイクから返ってきた。 「始末の・・・付け方?」 「ソウダ。コウシテ主人ノ命令ニ反シテ実体化シタコト。 ソレニ対シテドウヤッテ始末ヲツケルカ・・・ソレヲ見ツケタダケダ。 ソシテ、覚悟シタダケダ」 「い、一体、何する気よ?」 心なしか、ルイズの声が震える。 同じ戦いでも、ギーシュと決闘したときとは全く違う、ホワイトスネイクの様子に、 そしてその身体から感じられる気迫に、ルイズは気圧されていた。 「例エ私自身ガ消滅スルコトトナッタトシテモ、マスターヲヤツカラ守リキル。 アルイハ生キ延ビタトシテモ、ソノ後ニ自分デ自分ニ決着ヲツケル」 つまりこういうことだ。 この戦闘でホワイトスネイクは捨て身でラングラーと戦い、そこで戦死する。 また仮に生き延びたとしても、自害する。 つまりどちらにしても死ぬ、と言っているのだ。 「な、何よそれ・・・それって、死ぬってことなの? あんた、自分で何言ってるか、分かってるの?」 「元々無カッタハズノ命ダ。惜シム事ナド無イ。 アワヨクバ、最後マデスタンドトシテ存在シ続ケタイ。 ソウ思ウグライノ、ソノ程度ノ命ダ」 自分の名誉のために死ぬ。 ホワイトスネイクが言っているのは、そういうことだった。 ルイズへの忠誠のためではなく、スタンドとして自分の存在を全うするため。 そのために、自分で自分の命を捨てる、と。 傍から見ればこの時のホワイトスネイクは、 一種の悲壮さと勇敢さを持っているようにさえ見えたろう。 しかし今のルイズには、それがただの身勝手であるようにしか見えなかった。 ホワイトスネイクが、自分の名誉のためだけに戦おうとしていたからだ。 「主人のために戦う」のではないのか。 自分は主人として認められていないのか。 そう思うと、怒りよりも悔しさがこみ上げてきた。 「も、もも、もういいわ。すす好きにしなさいよ! アンタなんか、もう知らないんだからッ!」 ルイズはヤケクソになってそう言い放ち、ホワイトスネイクの背中を強く蹴っ飛ばす。 ドゴオッ! 「グッ!」 その衝撃で、ホワイトスネイクがぐらりと正面によろける。 それがまずかった。 (今・・・あのガキ・・・ホワイトスネイクの背中を・・・蹴ったよな? なのに・・・あのガキが・・・背中を痛めたようには・・・見えねえ。 そういう素振りが・・・全くねえぞ。 どうなって・・・やがる・・・・・・) ラングラーに見られたのは、まずかった。 これまでルイズとホワイトスネイクがしゃべくっているのも、 二者の間でのダメージの共有を恐れていたからこそ見逃していたラングラーである。 しかし今、そのダメージの共有が無いことが分かった。 「おい・・・ホワイトスネイク。お前・・・まさかとは思うが・・・ お前が受けたダメージ・・・そのガキには・・・伝わらんのか?」 その瞬間ホワイトスネイクはラングラーが攻撃してこなかった理由を悟った。 そして、ヤバイと思った。 しかしルイズにはそれが何を意味するのかも、 それがヤバかったってことも全く分からなかった。 「ええ、そうよ。ていうかそんなのあるわけ無いじゃない」 なので、それが言っちゃあマズイことだってのも、全く分かってなかった。 (ナンダトォーーーーーーーッ!?) 焦ったのは、ホワイトスネイクである。 まさかこんなにあっさりとカミングアウトされるとは思いもしなかったからだ。 そして―― 「そう・・・か。じゃあオレが・・・テメーを攻撃しない・・・理由はねえな。 ええ・・・? ・・・・・・ホワイトスネイク」 ラングラーの宣戦布告とともに、 JJFの腕のリングが、グルグルと高速で回転し始める。 「来ルカッ!」 ホワイトスネイクが拳を握り締め、 太極拳の構えからボクサーのようなファイティングポーズへ移行する。 そして―― 「ジャンピン・ジャック・フラッシュッ!」 ラングラーが叫ぶ。 それと同時に、JJFの腕のリングから、無数の小さい「何か」が放たれたッ! ドンドンドンドンドンッ! 放たれたそれらは空気を切り裂き銃弾に匹敵する速度で、 一直線にホワイトスネイクへと襲い掛かる。 「シャアァァーーーーーーーーーッ!!」 バギャギャギャギャッ! ホワイトスネイクは咆哮とともに拳を縦横無尽に振るい、 自分に向けて放たれた無数の「何か」を叩き落し、あるいは弾き飛ばす。 叩き落されたものはじゅうたんをぶち抜いて床にめり込み、 あるいは室内のタンスやクローゼットに突き刺さった。 「な、なに? いい今アイツ、何を飛ばしたのよ!?」 ラングラーの後ろに控えるJJFが飛ばした「何か」と、 それを明確に視認して弾き飛ばしたホワイトスネイク。 さらにホワイトスネイクが弾き飛ばしたがために、 部屋の内装がかなり傷ついたことでパニックになるルイズ。 「アレガヤツノスタンド能力ダ。 無重力ニヨッテ慣性ヲ味方ニツケ、鉄クズヲ加速シテ銃弾ノヨウニ放ツ」 「『むじゅーりょく』? 『かんせー』? 何よそれ!?」 「・・・・・・知ラナイノカ?」 「そんなの聞いた事も無いわよ!」 「そのガキが知らんのも・・・無理は無い。 この世界は・・・科学が・・・全く発展してねえからな。 無重力の概念も慣性も・・・だれも理解しようとはしない。 だからこそ・・・・・・オレはここで無敵だったのさ・・・・・・」 この世界はちっとも科学が発展していないのだな、とホワイトスネイクは思った。 「ソウカ・・・ダガ貴様ノ能力ガ誰カニ理解サレル必要ハ、今日無クナル。 無重力ヲ利用スルモノモ、慣性ヲ利用スルモノモ、 今日ココデ、ソノ最初デ最後ノ一人ガ死ヌカラナ・・・」 「出来るのか・・・ガキのお守りを・・・したままで・・・・・・?」 「スタンドトハ、元来ソウイウモノダ」 「なるほど・・・な。じゃあ・・・再開と・・・いくか! ジャンピン・ジャック・フラッシュッ!」 ドンドンドンドンッ! ラングラーの声に応じ、再び無数の鉄クズを放つJJF。 バギョギョアッ! それをホワイトスネイクは、正確に拳で弾き飛ばしていく。 弾き飛ばした鉄クズは、やはり多くが部屋の内装に突き刺さり、 そしていくつかが扉を突き破って廊下に飛び出していった。 「また防いだか・・・だが・・・どこまで続くかな・・・・・・」 ドンドンドンドンドン! そしてJJFの腕のリングから、第二波が放たれる。 今度は一点集中。 ホワイトスネイクの胸部目掛けて集中するように、角度を調整してきた。 「シャアアアアアッ!!」 バギャギャギャッ! それをホワイトスネイクは両拳の、ストレートの高速連打で弾き飛ばしていく。 そして弾いたその何発かがラングラーに襲い掛かる。 ホワイトスネイクが、狙ってそのように弾き飛ばしたのだ。 しかしラングラーはそれを予想していた。 バギギィン! ラングラーを貫くはずだった鉄クズが鈍い音とともに床に叩き落される。 JJFが拳で鉄クズを叩き落したのだ。 パワーならホワイトスネイクを上回るJJFならばこそ、 それが出来ない道理は無い。 「チッ・・・・・・」 「残念・・・だったな。その程度じゃあ・・・・・・オレは倒せねえ。 それに・・・前から・・・思ってたんだ」 そう言いつつ、JJFに鉄クズを撃ちまくらせるラングラー。 今度は先ほどのように集中するようなものではなく、 部屋全体に満遍なくばら撒くような射撃。 それをホワイトスネイクは自分の方へ飛んでくるものだけを狙って弾き飛ばす。 「オレのJJFは・・・無敵かもしれねえ・・・ってことをな・・・。 テメーなんか・・・目じゃあねえぐらいに・・・ オレのJJFが強いって・・・前からずっと思ってたんだ・・・・・・」 直後、ホワイトスネイクの右足が鉄クズに撃ち抜かれた。 さらに右腕、右肩に鉄クズが着弾し、ホワイトスネイクの身体にめり込む。 それらの衝撃にホワイトスネイクの体がぐらりと揺れる。 (跳弾・・・カ。無作為ニバラ撒イタヨウニ見セカケテ・・・ 壁ヤ天井ヲ跳ネ回リ、私ヲ襲ウ本命ヲ潜マセテイタノカ・・・・・・) してやられた、という屈辱感がホワイトスネイクの胸を満たす。 ルイズは思わず声を上げそうになる。 今ホワイトスネイクが撃たれた事が、後ろにいたルイズにも分かったからだ。 「さて・・・今度は真正面から・・・テメーを・・・穴ボコのチーズみてーに・・・してやるぜ」 JJFが両腕を真っ直ぐホワイトスネイクに向ける。 そしてッ! ドドドドドドドドドドドドドドドドッ!! 今度はマシンガンのように、一呼吸も置くことなく、 大量の鉄クズをホワイトスネイクに集中して射撃したッ! それをホワイトスネイクは―― 「シャアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーーーーーー!」 バギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャッ!! 部屋中に響き渡る咆哮とともに、真正面からそれに立ち向かうッ! 自分に襲い掛かる鉄クズの全てを、拳で弾き飛ばしてゆくッ! しかし、そのためにホワイトスネイクは一気に消耗していく。 JJFから放たれる鉄クズの速度、威力は弾丸並み。 ホワイトスネイクはそれを拳で弾き飛ばし続けたのだ。 そのためにその両拳にはダメージが次々と蓄積されていき、 拳で完全に弾ききれなかった鉄クズが自分の体を掠め、あるいは突き刺さる。 ガードが間に合わなかったために胴体にめり込んだ鉄クズも2、3ある。 だがホワイトスネイクは拳を振るうことを止めない。 スタンドとしての存在を完遂するため、 拳を振るのを止める事は決して出来ない。 そして―― 「ホワイトスネイク・・・随分・・・辛そうじゃあねえか・・・ええ? ・・・・・・おい」 「・・・・・・」 嵐のような集中射撃が終わったとき、ホワイトスネイクの身体はボロボロになっていた。 とりわけ両拳は、いまにも崩れ落ちそうな程に傷つき、ひび割れていた。 JJFから弾丸並みの速度、そして威力をもって放たれる鉄クズを、もう30発以上も弾き飛ばしていたのである。 これまで拳が持った事が幸運だったと言えよう。 おそらく、次の射撃をホワイトスネイクの拳は防げない。 次の一波の2発目、あるいは3発目、いや1発目を弾き飛ばした瞬間、 ホワイトスネイクの拳は砕け散る。 「おそらくお前の拳・・・次で・・・壊れる。 そうなったら・・・どうするつもりだ? テメーの身体で・・・そのガキを庇うのか? オレはガキを・・・無傷で確保できれば・・・それでいいからな。 是非とも・・・テメーの身体でガキを庇って・・・・・・それで死んでくれ」 ラングラーはそう言いつつ、 ウエストポーチから取り出した鉄クズをJJFの腕輪に補給する。 これで、JJFが弾切れを起こすことも期待できなくなった。 だがホワイトスネイクは表情を変えない。 何故ならホワイトスネイクには、 自分が置かれている状況がこの場の誰よりも理解できているからだ。 後4回。 それだけ鉄クズを弾いたなら、自分の拳が砕ける。 それが今までの経験から割り出した、今の自分の限界だった。 その限界を迎えた後はどうするか。 そんな事は、言うまでも無いことだった。 そして、JJFが腕を構える。 ホワイトスネイクが、ファイティングポーズをとる。 勝利を確信したラングラーの顔が、笑みに歪む。 そして、叫ぶ。 「くらえッ! ジャンピン・ジャック・・・」 バゴォォオン! その瞬間、ルイズの部屋のドアが烈風の塊にぶち破られる。 風の魔法、「エア・ハンマー」だ。 ゴォオォアッ! そしてそれに続くように、真っ赤に燃え盛る火球が部屋の入り口から放たれるッ! 火の魔法「ファイア・ボール」。 それが一直線に、今まさに攻撃をしようとしていたラングラーへと突進するッ! 「うおおぉおッ!!」 驚きに声を上げながら、床から飛び上がり、壁を蹴って部屋の隅へと逃げるラングラー。 だがその動きを追うように、10本以上の氷の矢―― ――水・風・風のトライアングルスペル「ウィンディ・アイシクル」が、ラングラーへと殺到するッ! ドシュシュシュシュッ! 空気を切り裂き、自分に迫る氷の矢の群れに、ラングラーが叫ぶ。 「ジャンピン・ジャック・フラッシュッ!」 ドンドンドンドン! JJFの両腕から放たれた鉄クズが氷の矢を迎撃し、その全てを撃墜した。 「何者だ・・・テメーらは・・・・・・今の魔法・・・この威力・・・ トライアングルクラスだぞ・・・・・・」 一瞬のうちに襲い掛かった強力な魔法の連撃に、顔をしかめるラングラー。 その顔に、ルイズにとっては聞き慣れた声がかけられる。 「あ~ら、ごめんなさいねえ・・・。 でもレディの部屋にブ男が、呼ばれもしないで土足で入るもんじゃあないわ」 そしてその声は、ホワイトスネイクにも聞き覚えのある声だった。 「あ、あんた・・・キュルケ!」 驚きを隠さず声を上げるルイズ。 そしてキュルケの登場に驚いたのはホワイトスネイクも同じだったが、 ラングラーへの警戒を緩めないため、視線はラングラーに合わせている。 「どうしたのよ、ルイズ。こんなブ男が趣味だったってワケ?」 「ち、ちち違うわよ! っていうか、どこを見たらそんなこと・・・」 「はいはい、分かってるわよ。理由は知らないけど、コイツに襲われたんでしょ? それと、タバサに感謝しなさいよ。この子がいなかったら、 私も気づかなかったんだから」 そういうキュルケの横から、ひょいと青髪の女の子が顔を出した。 タバサである。 彼女の目はルイズたちにではなく、ラングラーへと向けられている。 タバサが部屋に訪れて「何か変」と言った後、寝巻きのままだったキュルケは学生服に着替え、 そしてこれからどうするか、というところだった。 タバサ自身も何か奇妙な違和感を感じたというだけで、 誰がどこにいるだとかそういう細かいことまでは分からなかったのだ。 そうしたことを相談していたところに、 ルイズの部屋のドアを突き破ってあの鉄クズが飛び出してきた。 言うまでも無くJJFが撃った鉄クズである。 その瞬間、キュルケとタバサはルイズの部屋のドアの両脇に回った。 そして互いに目で合図し、自分がすべきことを確認し、 すぐさま行動を開始した・・・というわけだ。 タバサはこの未知なる敵にこれ以上に無い警戒をしていた。 鉄クズを飛ばすという謎の能力。 そして今の奇襲に対する立ち回り。 全てが、この敵の強さを物語っていた。 「キュルケ・・・気をつけて」 「分かってるわ。あなたの『ウィンディ・アイシクル』を一つ残らず叩き落すようなヤツですもの・・・油断なんか出来ないわ」 杖と鋭い視線をラングラーへと向ける、キュルケとタバサ。 その二人を、ラングラーは怒りを込めた目で見据える。 「あのガキ以外は・・・殺しても構わねーことに・・・なっている・・・。 オレをナメた事を・・・必ず・・・後悔させてやるぜ・・・・・・」 最初に動いたのはキュルケだった。 素早くルーンを唱え、杖の先に真っ赤な火球を膨らませる。 先ほどと同じ、ファイア・ボールだ。 そして火球が50サント程までに膨らんだところで、火球が杖を離れ、 一直線にラングラーへと襲い掛かるッ! しかも、今度のファイア・ボールは相手を追跡するようにしてある。 先ほどの、まだ相手が確認できないうちに撃ったファイア・ボールとはワケが違う。 相手を執念深く追いつめ、焼き尽くす。 これが本当のファイア・ボールだ。 しかし、ラングラーは先ほどとは違い、避ける素振りすら見せない。 それどころか、どういうわけか掌に唾を吐き、 その掌を自分に向かってくるファイア・ボールに対して、 掌打でも打つかのように突き出した。 そして自分の力の名を静かに唱える。 「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」 その瞬間、ラングラーの掌を腕ごと焼き尽くすハズだった炎は、 その掌の10サントほど前で溶けるように「消滅」してしまった。 「な・・・何が起きたの?」 予想だにしなかった事態に虚を突かれ、思わずそう呟くキュルケ。 そこへ、ラングラーが容赦なく鉄クズを撃ち放つ。 ドンドンドンッ! 「しまった・・・」 鉄クズの群れがウィンディ・アイシクルのそれを遥かに上回る速度で殺到する。 必殺の魔法がウソのように無力化されたショックで、 キュルケは鉄クズを避けるタイミングもそれを防ぐタイミングも失った。 今更ファイア・ボールを唱えたところで間に合わない。 「キュルケッ!」 それを後ろから見ていたルイズが悲鳴を上げる。 だが―― ドヒュゥゥン! それらがキュルケの身体を貫く直前、巻き起こった一陣の烈風が鉄クズの軌道をそらしたッ! キュルケを襲うはずだった鉄クズの群れは、それを僅かに外れて壁に突き刺さる。 風の魔法、「ウィンド・ブレイク」だ。 「あ・・・ありがと、タバサ」 「気をつけて」 キュルケの感謝の言葉に、タバサは言葉少なく答える。 「ホワイトスネイク。あいつが何したか、分かる?」 「アレモ『無重力』ノ産物ダ。触レルモノ全テ・・・空気デアロウト何デアロウト、全テ無重力ニスル。 無重力ニナッタ空気ハ本来アルベキ場所カラ無クナリ、 空気ガ全ク存在シナイ空間デアル『真空』ガ生マレル。 炎ガ燃エルタメノ酸素モ風ヲ操ルタメノ空気ソノモノモ、ソコニハ一切ナイ。 言イ換エルナラ『死の空間』トモ言ウベキモノダ」 「死の、空間・・・」 噛み締めるように、ルイズが言う。 「アノ二人・・・ラングラートハ、アマリニモ相性ガ悪イ。 コノママデハヤラレルゾ」 「やられないわよ」 「・・・ナニ?」 「キュルケはやられないわ。 あんまり認めたくないけど、キュルケは炎を使わせたらこの学院で一番よ。 それにあのタバサって子も強いわ。 ウィンディ・アイシクルなんてすごい魔法をあんなに簡単に使えるんだから。 ・・・だから、あの二人はアイツなんかに負けない」 そんなルイズの言葉を聞きながら、 ホワイトスネイクはある疑問を脳裏に浮かべていた。 (シカシ・・・妙ダ。 アイツガ真空ヲ利用シタニシテモ唾液ヲツケテカラ真空ノ攻撃ガ始マルマデ、 モット時間ガカカルハズ。 ヤツノ能力ニ、変化ガ起キテイルトデモ言ウノカ・・・・・・?) 一方ラングラーと対峙するタバサは、 隣で自分と同じくラングラーに杖を向けているキュルケにあることを告げた。 「あいつの周り、空気がおかしい」 「おかしいって・・・どういうこと?」 「キュルケのファイア・ボールを消したとき、 あいつの掌の周りから一瞬だけ空気が無くなった」 「空気を無くす・・・? そんなことって、できるの?」 「系統魔法じゃ無理。多分・・・・・・先住の力か何か」 「先住の、力・・・・・・ね」 噛み締めるようにキュルケが呟く。 先住の力。 即ち、エルフの魔法。 系統魔法の限界を超えた、圧倒的で、そして強力な魔法だ。 それにさっき自分の攻撃を避けたとき、 人間とは思えないぐらい高く飛んだ気がする。 であれば、そういったものをあの男が使役しているのは、ほぼ確実・・・。 そのことが、キュルケの背筋を冷やした。 「あいつが飛ばすものは、わたしじゃなきゃ防御できない。 わたしはだから防御に集中する。 キュルケは攻撃をお願い」 「・・・でも、あたしの攻撃はアイツには効かないわよ?」 「工夫して」 「・・・・・・工夫、ねえ・・・」 「私が攻撃に加わった瞬間、あいつは遠距離攻撃をしてくる。 あの攻撃は銃弾ぐらいの威力は十分ある。 当たったらただじゃ済まない」 「そう・・・ね。分かったわ。こっちはこっちで何とかする。 あなたはあなたの言ったとおり、防御をお願い」 「分かった」 その言葉と同時に、タバサが前に出て、キュルケがその後ろに回る。 JJFの動きによる風の細かな乱れから攻撃の瞬間を捉え、 発射された鉄クズが自分に着弾する直前にウィンド・ブレイクで射線をそらす。 そのためには、タバサが前衛で防御を担当するのが得策。 そしてキュルケは、タバサが作る即席の防御陣から、ファイア・ボールで攻撃する。 その場で作り上げただけの連携作戦だが、現状に対応するのにこれ以上のものは無い。 「さあて、リベンジといくわよ!」 場所は変わってトリステイン魔法学院の校庭。 そこにその女は潜んでいた。 女の名前はフーケ。ちなみに偽名である。 そして職業は泥棒。それも、世間ではかなり名の知れた方だ。 なので「大泥棒」と称してもいいかもしれない。 また「彼女」・・・とは言っても、世間では性別不詳ということになっている。 「仕事中」の彼女の顔を見たものは一人もいないからだ。 フーケはこの学院の宝物庫に納められた「あるもの」を狙っていた。 通称「破壊の杖」。 噂にはどんな炎の魔法よりも強力な威力を持つとも言われ、 先住の産物ではないかとさえ揶揄されるほどだ。 そして調べてみれば、それほどのものが王室の宝物庫でなく、 この魔法学校の宝物庫に収められているというではないか。 これは買い・・・もとい、貰いだな、とフーケは考えた。 そして学院に潜入し、現在に至るというわけだ。 しかし今まさに盗みを決行しようとしていた彼女は、 避けて通れない「ある問題」にぶち当たっていた。 宝物庫が思いの外頑丈なのだ。 事前の下調べで得た情報に拠れば物理的な威力には弱いとのことだったが、 それでも自分が作るゴーレムの一撃でもどうにもならないぐらいに壁が硬い。 フーケはこれまで色んな盗みをしてきた。 そしてその盗みの中で、ゴーレムを使って壁を破壊する、という手段もよく使ってきた。 つまり物理的なパワーで頑丈なものを壊すことに慣れているのである。 そんなフーケだからこそ分かる。 この壁は、自分のゴーレムでは破壊できない。 打撃の瞬間に拳を鉄に錬金したとしても、結果は同じだろう。 さて、どうしたものか。 フーケは空高く上った二つの月を仰いで、そんなことを考えた。 一人の女子生徒の部屋が、生死をかけた戦いの戦場になっていることなど、彼女には気づく由も無かった。 二人の男女が校庭のどこかを歩いていることにも、当然気づいてなどいない。 To Be Continued...
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/379.html
ルイズの起床より少し遅れる事幾らか。 体中に包帯を巻いて湿布を張り付けたキュルケも全身に痛みを感じながら意識を取り戻した。 朦朧とする頭で窓を眺め、そこから見える太陽の眩しさに意識の覚醒を促される。 体のあちらこちらに感じる痛みに苦しみながらも、キュルケは昨日の出来事を思いかえした。 途端に体の痛みに勝る怒りがキュルケの頭を占める。 (瓦礫に押し潰されて無抵抗な私に2度も暴行を加えるなんて!) 正確には瓦礫に押し潰された後の2発はルイズのした事ではなかったが。 体の痛みと頭の怒りで、割と混乱しているキュルケは気付いていない。 「ルイズゥゥゥゥ!!!この恨み晴らさでおくべきかッ!メェェェェェェーーーーーン!!」 と、どこぞのアメリカインディアンの呪術師のような事を叫びながら体を起こした。 今のキュルケの怨念なら人形を遠隔操作してルイズを暗殺する事も可能かもしれない。 ・・・・・・そのアメリカインディアンの呪術師の死体は、とあるデッサンの狂った頭の男との死闘の末にトイレで発見されたのだが。 彼はそこにずっと隠れていたのか?それとも偶然トイレで用を足しているときにやられてしまったのだろうか? まあ、物語とは全く関係無い疑問だ。 体を起こした勢いのまま着替えと化粧を数分で済ませるキュルケ。 しかし、怒り狂ってるとは言え、着替えと化粧を忘れないのはある意味冷静である。 化粧を終わらせた瞬間、自分の部屋から飛び出て、隣にあるルイズの部屋のドアを蹴破る。 バギャァッ!! と言う凄まじい音と共に、直されたドアが再度破片と化してルイズの部屋の中に吹っ飛んだ。 ザッ ザッ ザッ ザッ ザッ ザッ ザッ ザッ ザッ ザッ ザッ ザッ 胸元から杖を取り出しながら、破片が散らばる部屋の中に悠々と進入するキュルケの姿。 こことは別世界のレース中に起きた果樹園の決闘の一部を思い出させる。 次の瞬間、何かに気付いたキュルケは慌てて部屋を見回した。 しかし見回しても結果は変わらない・・・・・・部屋はもぬけの殻だったのである、誰も何も居ない。 顔が赤くなるキュルケ。褐色の肌なので良く見なければ分からない事だが。 キュルケの頭の中では、ヤッベェーぜッ!!ドジこいたーーッ!!との言葉が浮かんでいる。 勇んで宿敵の部屋に入ってみれば留守中。 魔王の城に入ろうとしたら、門に本日休業の看板が立て掛けてあったのと同じぐらいの喜劇である。 「え、ええ!?何?どっかに出かけてんの?」 ちょっとテンパりかけたキュルケだが、鞄が何処にも無いのに気付く。 急いで、部屋の窓の外を見る、すると門から馬に乗って出ていく二つの人影が。 目を凝らしてみれば、それはルイズとギーシュである事がわかった。 「ムム!?」 ルイズはともかく何故ギーシュも出かけるのか?キュルケは疑問に思った。 更にちょっと慌てているキュルケの目にはルイズとギーシュは仲良く話し合っているようにも見えた。 数秒何かを考えたキュルケは、入る時以上のスピードでルイズの部屋を飛び出した。 タバサにとって、虚無の曜日は大事な物である。 何故ならば、誰にも邪魔をされることなく、趣味の読書に没頭できるからだ。 今日も彼女は朝から本のページに目を移している。 だが、そんなタバサの安息は唐突に破られる事となった。 ドンドン!! 乱暴な音を立ててドアが揺れる。 誰かがノックしている、しかし、タバサはドアを一瞥しただけで軽く無視する。 ドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!!!!! 超速の乱打を受けて、壊れそうな音を立てながらドアが揺れる。 しかし、これまたタバサは無視して本を読み続ける。大物である。 そして―――― ドガッ! ドアがいきなり物凄い音を立てて開かれた。 鍵が吹き飛び、開かれたドアは前後にグラグラと揺れながら、蝶番がギシギシと嫌な音を立てる。 乱暴な方法で入ってきたのは赤毛の女生徒、キュルケだ。 本来ならこんな乱暴者には得意の魔法『ウィンディ・アイシクル』で体中を蜂の巣にして部屋から叩き出す所だが、キュルケは、タバサにとって数少ない友人である。 それにキュルケは爆発寸前の爆弾のような目をしながらこちらを見ている。 ゼーハーゼーハーと荒い息の音がタバサの耳にはっきり聞こえる。 (刺激するのは良くない) と判断したタバサは溜息を突くと読み掛けの本を閉じて話しを聞く事にする。 「出かけるわよ!30秒で支度してちょうだい!」 いきなりにも程がある言葉に そのキレイな顔をフッ飛ばしてやろうか、とタバサは思い実行に移しかけた が、持ち味でもある驚異的な忍耐力でそれを我慢する、良い子である。 タバサのジト目に気付いたのか、慌てて話しを続けるキュルケ。 「あのルイズがギーシュと一緒に出かけたのよ!それも2人っきりで! ギーシュがルイズに何かしないか、心配だからよ!そうなのよ!」 そのキュルケの言葉は100%嘘だろうと瞬時に判断するタバサ だが、本当の事を話してくれるまで聞くのも時間の無駄だと思い、渋々窓を開けてシルフィードを呼ぶ。 指笛のピューッという甲高い音が空に吸い込まれると同時に、窓から外へ飛び出す二人。 落下するタバサとキュルケ、このままだと地面に衝突して潰れたトマトのようになるだろう。 だが、地面に衝突する前に、タバサの使い魔であるドラゴン―――シルフィードが二人を受け止めて上昇した。 キュルケの指差す方向を見るタバサ 確かにルイズとギーシュの二人が馬に乗ってどっかに出掛けているのが見える。 「追い駆けて」 タバサはシルフィードに命令しようとしたが。 ルイズとギーシュの周りを飛んでいるペットショップが目に入った。 ペットショップに見付かったらややこしい事が更にややこしくなるだろうと思い、即座に二つ目の命令を付け足す。 「あの鳥に見付かっちゃ駄目」 主人であるタバサの命令に、風竜は一声鳴いて応えると、卓越した視力で目標の死角を取りながら追い駆け始めた。 一息ついて本を読み始めようとしたタバサだが、ある事を思い出して隣のキュルケに伝える。 「ドアの修理代」 タバサの呟きはキュルケの苦笑いと共に青空に吸い込まれて行った。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/46.html
唇が離れる。 「終わりました」 顔を赤くしながらそう言った。照れているようだが照れるならしなければいいのに…… さっきの言葉を総合すると今のが私を使い魔とやらにするという宣言なのだろう。多分キスはそれの一旦だろう。 なにやら五月蠅くなったと思うとルイズと巻き髪の少女が言い合いをしている。それを先程の男性が宥めはじめた。 どうやら考え込んでいて周りへの注意が疎かになっているようだ。しかし考えが尽きないのだから困ったものだ。 そう考えている感じたことない感覚が身体を駆け抜ける! 「うぐああああああああああああああああああああああああ!」 体を抱きしめる!そうだ!これは熱さだ! 前はこんな感覚は感じなかった!しかし生きていた時の感覚として残っている!間違いない! しかし私にとっては初めてと同じだ!耐えられるわけがない! だが熱はすぐに治まった。どうやらほんの少しの間だったようだ。助かった。 何故こんな思いをしなければならないんだ!本当はターゲットがここに来るんじゃなかったのか!? どうして私なんだ!幸福になりたいだけなのに! 「なにをした!」 「うるさいわね。『使い魔のルーン』を刻んだだけよ」 刻む!?一体何を刻んだというんだ! 「お前に何の権限があっ「あのね?」?」 いきなり話しかけられ勢いが削がれる。 「平民が、貴族にそんな口利いていいと思ってるの?」 「貴族?」 この娘が貴族だというのか?つまりここは外国か?今世襲貴族を認めているのはイギリスやヨーロッパ諸国だ。 ではなぜ会話が成立している?私は日本語で喋っているんだぞ? くそっ!頭が爆発しそうだ! 「さてと、じゃあ皆教室に戻るぞ」 中年の男性が踵を返す。そして……宙に浮かぶ。 他の連中も一斉に宙に浮かぶ。そして浮かんだ連中は城に向かって飛んでいく。 「……ハハハ」 笑うしかないというのはこういうことなのだろう。帽子がずれ落ちる。 もう私は理解しようとする意思はなかった。 ここにいるのは私とルイズの二人だけだった。 ルイズはため息をつくと私のほうを向いてくる。 「あんた、なんなよ!」 いきなり怒鳴ってくる。五月蠅いことだ。今の私はもはや混乱はない。とても冷静だ。 さっきのでもう色々吹っ切れたようだ。 「言ったと思うがね。私は吉良吉影。分かったら色々教えてくれないか?いきなり連れてこられて訳がわからないんだよ。」 「ったく!何処の田舎から来たか知らないけど、説明してあげる」 ありがたい。 その本当に色々聴いた。ルイズは本当に何処の田舎ものだという風に私を見ていたが気にしない。 総合するとここはファンタジーだ。ドラゴン、魔法使い、魔法学院、使い魔、召還、契約…… なんてものに巻き込まれてしまったんだ。 それに私は元の場所に戻れないんだそうだ。別の世界と繋ぐ魔法はないらしい。召還したというのにまったく無責任な話しだ。 足に何か当たったので足元を見ると弾丸が入った箱が落ちていた。 慌てて懐に手を当てる。銃の存在を確認できた。よかった。なくなっていないようだ。弾丸が入った箱を手に取る。 辺りは暗くなりかけていた。 その後ルイズに連れられ十二畳ほどの部屋連れてこられた。ルイズの部屋らしい。 ルイズは夜食のパンを食べている。 窓から空を見るととても大きい月が二つあった。まぁ眺めはいいかもしれない。 「このヴァリエール家の三女が、由緒正しい旧い家柄を誇る貴族のわたしが、なんであんたみたいな辺鄙な田舎の平民を使い魔にしなくちゃ いけないの……」 突然口を開いたかと思えば愚痴だ。やれやれ、自分が召還したというのに。器の程度が知れてるな。 私の仕事は洗濯、掃除その他雑用だそうだ。 本来の使い魔の仕事は私では出来ないからな。 このままルイズのそばで与えられた仕事をこなしていけばさらに色々知ることができるだろう。 逃げるのその後だ。危険は少ないほうがいいに決まっている。 「さてと、色々あったから眠くなってきちゃったわ」 そう言うとルイズがあくびをしながら着替え始めた。そのまま下着になる。羞恥心が無いのか? 「じゃあ、これ、明日になったら洗濯しといて」 そういうとキャミソールにパンティを投げてくる。 そして大き目のネグリジェを頭からかぶる。 ルイズが指を弾くとランプの明かりが消える。 ルイズが布団にもぐりこむと暫らくして寝息が聞こえ始めた。 窓から月を見つつ手袋をはずし左の手の甲を見る。ミミズがのたくった様な模様が刻まれている。 これが『使い魔のルーン』というやつだろう。 手袋を嵌めまた月を見ながら思う。左手が戻ってきった。他人に見えるようになった。 生きているのと同じ感覚が味わえる。生命に触られても何の問題も無い。 結論から言うと吉良吉影は生き返った。 これからはどうやったら『幸福』になれるか考えていこう。 吉良吉影の使い魔としての生活が始まった 4へ
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/681.html
タバサは最近、自分の使い魔におきた変化に困惑していた。 最近、妙に身体が重い。 私のことではない。使い魔のシルフィードのことだ。 先日ギュルケを乗せてルイズとその使い魔の尾行をした際に気がついた。 切り返し等の空中機動が以前より少し鈍っている気がする。 (なお、ルイズはあの使い魔にインテリジェンスソードを買い与えた。 ギーシュの劣化ぶりを目の当たりにして、自分も使い魔に似るのではと危機感を抱いたらしい) スタイルも多少変化しているような…ありていに言えば、太りはじめた? ここ数日で特に普段と変わった食事は与えていない。 数日前にキュルケから、厩舎に置いておくとギーシュの使い魔が世話してくれると聞いて、あの子に伝えた。 次の日ぴかぴかになっていたので噂は事実なのだろう。 …ひょっとしてそこで何かもらっているのだろうか? 午後の授業を抜ける。 この時間、普通ならシルフィードはその辺を飛び回っている。 …何故厩舎に反応があるのか。 影からこっそりと様子を伺う。 いる。 厩舎前にでっぷりと(仮にも風韻竜についていい形容ではない!)寝そべっている。 ツバサをギーシュの使い魔が磨いている。何やら実に楽しそうだ。 シルフィードは、寸胴鍋に頭を突っ込んでいる。 しかも、空の寸胴鍋がいくつか周囲にある。 運動するべき時間にこれだけ食べて寝そべっていればそれは太る。当たり前だ。 (…シルフィード) 真後ろに立って思考で呼びかける。 びくん!と竜の巨体が震える。 (お、おねえさま…) (説明を) (…はい) ギーシュの使い魔(ミドラーというらしい)とシルフィードを並べて尋問する。 この竜の飼い主だ、と名乗ると意外にもミドラーは大人しくなった。 数名の生徒に対する暴行(いや、強盗か)から推測していたよりは凶暴ではないようだ。 (何故ここにいるのか) (このおねーちゃんが翼を洗ってくれるって言うからおねがいしてました) 杖で寸胴を指しながら訊く (これは何か) (細かいお肉とご飯をねって、ぶどうの葉っぱでくるんで煮たものだそうです。おいしかったです) (そんなことは訊いてない) (ごめんなさいごめんなさいおねえさまおこらないで) ミドラーにも話を聞く。 どうやら洗っている間に逃げたりしないように与えていた餌がどんどんエスカレートしたらしい。 状況を聞くに付け、どうやらシルフィードがせがんだようだ。 この竜はどこにいるのか、どうやって飼い慣らすのかと訊ねてくるが、曖昧にスルーする。 竜自体を学院で初めて見たようだ。風韻竜がばれた様子はない。 ただの風竜としての知識を教えておけばいいだろう。 「喋れるなんていいなあ…」 その、肩を落としてシルフィードに呟いた台詞に、心臓が凍りつくようなショックを受ける。 (シルフィード!) 「しゃ、しゃべってなんかいません!」 もう駄目だ。 仕方なく風韻竜について説明する。 絶滅危惧種なので無用のトラブルを招かない為に風竜を装っていること。 人語で会話も可能、呪文詠唱、アイスブレスも可能。 人間に変身することも可能。 この子の為を思うなら秘密にしてほしい、と伝えると快諾してくれた。 さっきの台詞は「(テレパシーで)喋れるなんて(飼い主は)いいなあ…」という意味だったらしい。 簡単に動揺した自分を戒める。 気を取り直してシルフィードに訊く。 (今までどんなものを食べたか報告) 竜にはよくない食物だってある。 場合によっては薬草を飲ませる必要があるかもしれない。 (なすとピーマンとにんにくと、細かく砕いたお肉をまぜて焼いたものをいただきました。おいしかったです) …この子はピーマンが嫌いだった気がするのだが…? (見たことのない緑色の何かをいただきました。おいしかったです) ミドラーに確認。たーめいやというものらしい。主成分は空豆か、なら大丈夫。 (くるみとぶどうのつつみ揚げをいただきました。おいしかったです) …その組み合わせは初耳。おいしいのか。 (お肉とトマトと豆の入ったスープをいただきました。おいしかったです) ……… (あと今日はぴらみすというお菓子をくれるそうです) すっかり餌付けされている気がする。 これはいけない。 私がミドラーに話をしようと振り向くと、彼女は四角錐の奇妙なケーキを運んできた。 ぴらみすとはこれのことらしい。 勧められるままに味見をする。 甘い。 独特の風味があって実に美味しい。 二人の使い魔のすがるような目を前に、わたしは考える。 これは、明らかに未知の調理。 私の知る限りの国には、このようなものはない。 つまりこのミドラーという使い魔は、私の知らない異国の出身。 彼女はシルフィードに餌付けして支配、という意思はなさそう。ただ餌を与えたいだけだろう。 シルフィードも彼女の料理を望んでいる。私のあげるサラダは残すくせに。 彼女との交流は非常に意義深い。 見知らぬ異国の薬や魔法ならば、母を治すことも可能かもしれない。 私には既存の知識だけでなく異国の知識も必要なのだ。 しかし主のいない場所で使い魔が他人に餌付け、というのは実に拙い。 ……… 決めた。 私は彼女達に伝える。 「このままではよくない。シルフィードは太りつつあるし、いつ毒性の食物が混じるかわからない」 がっくりする二人に、言葉を続ける。 「午後の授業が終わった後、私が同伴して毒見をしてもいいなら許可」 「シルフィードは晩御飯の減量と特別の機動訓練をすること」 歓声をあげて二人の使い魔は抱き合って喜んでいる。 ちょっとミドラーに嫉妬した。 料理の取り分は、4:6にしよう。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2187.html
床に散らばった氷を見てモンモランシーはブチブチと文句を言った。 「ちょっと、どうするのよこの氷。タバサ、もう一度氷を作ってよ」 しかし、タバサは首を横に振る。 「今から戦いになる、無駄な精神力は使えない」 そう言いながら氷を拾い自分の顔に押し当てる。 モンモランシーもブツブツ言いながら氷を拾い顔に押し当てる。 「それでルイズ。今何か起こっているのかしら。 これから戦いになるってなんなの?」 モンモランシーの問い掛けにより、その場にいる全員の目がわたしに向いた。 皆に現状を理解してもらう必要があるわね。 「プロシュートが無差別攻撃をしているのよ」 わたしの答えを聞いたモンモランシーの首がナナメに傾く。 「プロシュートって、ルイズの使い魔じゃない。確か死んだんじゃなかったの?」 「そう、それよ!私も、それが不思議だったのよ」 キュルケがモンモランシーを押しのけ前に出てきた。 「アルビオンの貴族派に偽りの生命を与えられ操られているのよ」 あの夢の通りならプロシュートは『虚無』によって生き返ったはず・・・ 「偽りの生命・・・それってアンドバリの指輪のこと?」 モンモランシーの口から耳にしたことが無い名前が出てきたので思わず 聞きなおした。 「アン・・・なんですって?」 「アンドバリの指輪。水の精霊の秘宝。伝説のマジックアイテム。 知ってる人は殆どいないんじゃ無いかしら」 「なんでそんな事知ってんのよ・・・って確かモンモランシーの家は代々交渉役 を勤めてたんだっけ」 「ええ、そうよ。昔の話だけどね」 モンモランシーは肩をすくめた。 なんだかおかしな話になってきたわね・・・どういう事かしら。 仮説その一。 クロムウェルは生命の『虚無』を使えるしアンドバリの指輪も別に存在する。 仮説その二。 クロムウェルは誰も知らない(限りなく知る人が少ない)アンドバリの指輪を 使い『虚無』の担い手と称して皇帝に納まった。 ヤバイ。証拠なんて全然ないけどハマリすぎてるわ。 もしこれが当たってるとしたなら・・・ オリバークロムウェル・・・あのペテン師め・・・ 「ルイズ!」 モンモランシーが目の前で大きな声をあげる。 「なっ、何よ。ビックリするじゃないモンモランシー」 「さっきからボーっとして、ボケた?」 「ちょっと、それシャレになんないわよ。 気になる事があって考え事をしてたのよ」 モンモランシーがタメ息をついた。 「まあいいわ、続きをお願い」 「えっと続きね、プロシュートが操られた所まで説明したのよね」 わたしの言葉にモンモランシーが頷く。 「それで無差別攻撃って何なの?」 まだモンモランシーは状況を把握して無いようね。 「いま体験した老化現象の事よ」 「これを、あの使い魔がやったって言うの?」 「やったと言うか、今も継続中なんだけどね」 全員の顔に緊張が走る・・・回復したとはいえ、まだ終わって無いのだから。 「じゃあ、ここでプロシュートの能力について説明するわね」 わたしの発言にキュルケが異を唱える。 「ちょっとルイズ今更説明なんて意味あるの?それよりも早く彼を倒さないと」 このアマ・・・ 「キュルケ」 タバサがキュルケの名前を呼ぶ、キュルケはその呼びかけに応じ タバサの方を見る・・・ 「わかったわよ、おとなしく聞くわよ」 あの短いアイコンタクトで一体なにが・・・ そういえばマリコルヌの持ってた絵・・・いや・・・まさかね・・・ 「あのね、あんた達はプロシュートの能力を中途半端にしか知らないから 全部説明しようって言うのよ。ギーシュ!」 「なっ、なんだね?」 いきなり呼ばれたギーシュは目を丸くしている。 「あんた、あの広場の決闘を憶えてる?」 「ああ、兄貴が僕のワルキューレを追い詰めてたね」 「あんた、おもいっきり負けてたじゃないの!」 わたしが言う前にモンモランシーのツッコミが入る。 「ああ!あれ全然老化と関係無いわね」 キュルケが逸早く気付いたようね。 「そう、あれこそがプロシュートの『スタンド』よ」 「「「スタンド?」」」 キュルケ、ギーシュ、モンモランシーの声が重なる。 タバサは黙ったままだった。 「ルイズ『スタンド』とは何だね?」 ギーシュが挙手して質問してきた。 「プロシュートが、そう呼んでいたのよ幽霊みたいなモノと思っていいわ」 理解してくれたかしら。全員の顔を見渡すとタバサが顔面蒼白になっていた。 死んだ魚の色みたい・・・ 「・・・タバサ、もしかして幽霊が苦手なの?」 タバサがコクリと小さく頷いた。・・・表現の仕方を間違えたみたいね。 「言い方が悪かったわ。見えない『偏在』だと思ってちょうだい」 ワルドとのやり取りでそんな事を言っていたと思う。 「どう、タバサ別に恐くないでしょ『偏在』なんだから」 少しだけ顔色がマシになったタバサが挙手をして質問してきた。 「その『偏在』は全部で何体出せるの?」 「一体よ」 「その『偏在』の活動範囲は?」 「わからないけどプロシュートはあまり離して行動させないみたい」 何だか授業やってるみたい。 「私達には見えないというのが厄介ね」 キュルケが誰に聞かせるとも無く呟いた・・・見えない幽霊の様な存在。 以前何かで読んだことがある。犬や猫が何も無い宙を見つめている時 そこには幽霊が居るということを・・・ もしかしたら使い魔にはグレイトフル・デッドが見えるのかもしれない・・・ それを視覚共有で視れば・・・ダメね、あの姿を見たら戦闘どころじゃ無いわ。 わたしは普段なら逃げる事を良しとしないが、フーケ時は逃げてしまった。 見ればパニックは必至。この方法は提示できない! 「・・・あー、次にフーケを捕まえに行った時の事憶えてる?」 「あの光景を忘れる方が難しいわ」 キュルケが答えタバサも頷き同意する。 「私、知らないんだけど・・・」 「僕も知らないな・・・」 モンモランシーとギーシュが挙手をする。 「今から説明するわ。フーケが気を失いゴーレムが崩れたわよね」 「ええ」 と、キュルケが頷く。 「あの時『偏在』がゴーレムの腕をよじ登って行ったのよ」 「ああ!確かフーケ『何か』が腕を伝ってくるって言ってたわね」 「そう、そして『偏在』は『直』にフーケを掴まえた。その『偏在』に『直』に 掴まえられると、もの凄いスピードで老化するわ、まさに一瞬でね。 そして『氷』で冷やして回復してるけど『直』には関係無いから。 「なんですって!!」 「キュルケ声が大きい!」 慌てて口を塞ぐキュルケ。 「そして最後に無差別老化攻撃。これは今体験してもらっているわ『偏在』を 中心として最低でも約二百メイル内の生きている者全てを老化させる能力!」 「ブボッ」 ギーシュが氷を吐き出した。汚いわね・・・ 「な、何だね!そのデタラメな射程距離は!」 「プロシュート曰く『老化』の方に力を使っているからだそうよ」 わたしが説明を終えるとタバサが再び挙手をする。 「これだけの現象を起こす力、精神力はいつまで持つの?」 。 「残念だけど、それは期待しないで」 「そう」 それっきりタバサは黙り込んでしまった。 「他に聞きたい事はあるかしら?」 手に持ったデルフリンガーがカタカタと震えだした。 「どうしたのよデルフリンガー?」 「いや、聞きたい事じゃねーんだけど頭の片隅に引っ掛るっつーか 喉の奥まで出掛かってるってヤツ?」 「役に立たない剣ね。思い出してから発言してちょうだい」 「悪いね、俺ァ忘れっぽいんだよ」 「さて、もう聞きたい事は無いかしら?」 あと、未確認の情報も伝えたほうがいいのかしら? 「質問いいかな、僕のルイズ」 部屋の隅から居るはずの無い六人目の声が聞こえてきた。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1116.html
「僕はフラッシュ」 「オレはフルハウスだ」 「…ワンペアです」 『フリッグの舞踏会』が解散した後、コルベール、ブチャラティ、露伴の三人はアルヴィーズの食堂に残り、露伴が持っていたトランプでポーカーを行っていた。 誰かさんが圧倒的に一人負けしている。 「ところで…」 露伴が珍しく真剣にブチャラティに話しかける。 「君は元の世界に返る気はないか?」 「僕の『ヘブンズ・ドアー』で君の『使い魔』の契約は解除できる。 同じように、ルイズに『地球に繋がるサモン・サーヴァント』を唱えさせることも可能だ。 僕自身はいい。絶好の取材ネタがそこら中に転がっているからな… だが、君は、『あちら』に戻る気はないのかい?」 ブチャラティは少し考えて、口を開いた。 「結論から言おう。俺はここに残る」 「まず、ロハンには話したと思うが、俺は『あちら』ではすでに死んでいる。 元に戻っても、生きていられるという保障はどこにもない。 そして、俺の『使命』は仲間が果たした。『あちら』に『悔い』はない」 「それにだ」 「ルイズは自分自身に劣等感を抱いているようだ。 魔法が使えない自分は見下されていると感じている。 それにはどうしようもない憤りを感じている。 一方でそれ以外の能力は人並み以上だと思っている前向きな精神の持ち主でもあり、自分の家族に誇りも抱いている」 コルベールが相槌をうつ。 「良く観察していますね。さすがです」 「俺が感じたままを言っただけで、間違っているかもしれない。 彼女は、俺達が召喚されるまで、周りにどのように扱われてきたのだろうか? それにに対し、彼女はどんな思いでそれに対応してきたのだろうか? そんな中で初めて魔法に成功した『成果』が俺達だ。 それなのに、俺達がこの世界から消えてしまったらどうなる? 彼女はきっと立ち直れないだろう。 オレは彼女の使い魔になることで、ルイズの暗い影が大きくならないようにしていきたいと考えている。 それにはロハン、『使い魔である』君の協力は重要なんだ。 コルベール。君達先生もね」 「肝に銘じておきます」 「…わかったよ…あのじゃじゃ馬が相手じゃあ、これからが大変だな。 とにかく今は乾杯しよう」 露伴が飲みかけのワインボトルから、赤ワインをついで行く。 「何に乾杯しますかな?」 「そうだな…」 「生徒達の未来に」 「「生徒達の未来に」」 岸辺露伴は思い出していた。 タバサの本を読んでいるとき、シャルロットの母が身代わりになるくだりで、正直岸辺露伴は、正直『本』にしたことを後悔した。(マンガにはしたが) 生涯読んだ『本』の中で、二番目にキツイ内容だった。 (ちなみに一番目は、「治療の助けになるかも」と頼まれて読んだ億康の親父の本である。 肉の芽が暴走した後の日々はトラウマになりかけた) 昔はあんなに明るい子だったというのに… 『鈴美お姉ちゃんが助けてくれた』 自分自身の遠い記憶と、シャルロット母身代わりのシーン重ね合わせながら、おてんば娘だったころのシャルロットを回想していた。 「まあ、暇つぶしにでも…彼女を快活にさせてみるか…」 (ヘブンズ・ドアーを使わないで…な) 『ブルーライトの少女』 <<ネタばれ注意>> この書評には内容について触れています。 まだこの書物を読んだことがない方はお気をつけください。 1エピソードで完結する冒険譚を集めた短編集のマンガ。 短編集と銘打ってはいるが、主人公は全エピソードを通じて同一人物であり、 1巻全体で完結する物語といって良いであろう。 ロハン・キシベ氏らい、リアリティあふれる臨場感を楽しめるが、なぜか最終話のみ 『囚われた、主人公である少女メイジを突如出現する勇者が助け出す』という ありきたりな内容になっており、全体の雰囲気をぶち壊しにしてしまっている。 トリスタニア文芸愛好家クラブの評価 →ロハン・キシベ氏唯一の凡作 …『トリスタニア文芸書評全集 第3巻(初版)』より抜粋 時は少しさかのぼる… ここはアルヴィーズの食堂。 『フリッグの舞踏会』が行われている所である。 「おおッ!?」 門の周囲がどよめく。ルイズが会場に入ってきたのだ。 左右にブチャラティと露伴を引き連れていた。後ろには何故か黒髪のメイドもついてきている。 心なしか勝ち誇った表情をしているようだ。 帝王が歩くようにな態度で会場の中央に進んでゆく。 しかし、何よりメイジ達を驚かせたものは、彼女の衣装である。 パーティードレスではない。というか、いつもの制服姿であった。 「ル、ルイズ。控え室では素敵なドレス着てなかった?」 キュルケがおずおずと話しかける。 「……」 ルイズたちは無言を通す。 突然、ルイズ達が踊り始めた。 ズッタン! ズッズッ タン! 「ち、ちょっとタバサ!何あなたも参加してんのよ!」 ズッタン! ズッズッ タン! 「ギーシュ?モンモランシーまで…」 ズッタン! ズッズッ タン! グイン! バッ! 「…」 「ワンモアセッ!」 ルイズの声がパーティー会場に響き渡った。 ズッタン! ズッズッ タン! キュルケも参加する。 ズッタン! ズッズッ タン! オスマン氏、コルベールなどもそれらしいマネをしている。 ズッタン! ズッズッ タン! グイン! バッ! 他のメイジたちも全員踊りだす。衛兵すら参加しだした。 「ワンモアセッ!」 ルイズは、今まで生きてきた人生の中で、一番輝いた表情をしていた。 ズッタン! ズッズッ タン! ズッタン! ズッズッ タン! ズッタン! ズッズッ タン! グイン! バッ! 「ワンモアセッ!」 …… … 第1章 『味も見ておく使い魔』 FINE...